アコースティックギターと呼ばれる楽器には、
- 中学校/高校あたりで少し触れる、柔らかい弦が張られた「クラシックギター」
- 硬い金属製の弦が張られた「フォークギター」
の2種類があり、それぞれ基本構造は同じですが出音に違いがあります。「アコギのいい音」は比較イメージし易く、
キラメキのあるハイと適度にふくよかなロー
といった感じではないでしょうか?
これは金属弦のフォークが得意とする音なので、現代音楽で使用されるのは大抵フォークの方になりますが、何れにせよマイキングは同じと考えて大丈夫。
この一般的イメージから考えられる通り、高域特性の優れたコンデンサマイクを使う場面がほとんどとなります。
構造についての知識
アコースティックギターの音は
- 弦からの直接音(ハイ)
- 胴で共鳴した音(ローミッド)
という要素で成り立っており、 「アコギのいい音」を作るにはこれらをバランス良く集音すればいいのですが。
アコギは何よりも弦が命であり、長い間弦を変えず放置した高級機よりも張りたてのミドルクラス機の方がいい音がする……と言われるほど。要は、張りたての"ジャリーン"という感じが肝なんですね。エレキをやっていてアコギを始めた方は軽視しがちですが、エレキとは比べ物にならない程影響があるので、最も大切な部分です。
また、アコギをよく見ると、モデルやメーカーにより胴のサイズが違うことがわかります。
ド定番メーカーで、中高域のきらびやかに鳴る「いかにも」なサウンドで人気のMartin製、D-28等のサイズは"ドレッドノート"と呼ばれ、大きな胴で太く大きな音を作っています。

同じく定番メーカーで、迫力ある太い音で人気のGibsonにもJ-45、J-160Eなどドレッドノートに匹敵するようなサイズのものがあり、それを超えるJ-200等"スーパージャンボ"と呼ばれるモデルがあったと思えば、B-25なんかは小ぶりなフォルム。
このサイズ感はそのままローと音量の出方に影響し、大きいほど音量と押し出しが強くなり、コードを"ジャ~ン"と弾くと気持ちがいいですが、キレを出すのが難しくなります。逆に胴が小さめのモデルはレスポンスが良くなり、フィンガースタイルやソロギターなどで好まれる傾向があります。


マイキング
モノラルの場合
楽曲に他の楽器が多数入ってくる場合などは、1本のマイクで収録してミックスでパンを振る形になるでしょう。
要するに、ソロギターや弾き語りなどではない場合ということで。
誰でも思いつく、分かりやすいマイキングは、サウンドホールの真正面にコンデンサを置く形。
サウンドホールの上には弦もありますし、これで良さそうに思われますが、この方法ですと胴から飛び出すローが強すぎてボワッとしたサウンドになることがほとんど。
PA等ではできるだけ周りの音を入れたくないので、この「直接」マイキングかつ弦から数cmという場所にマイクを置くこともありますが、レコーディングでその必要はないでしょう。
で、実際どのように行うかというと、
サウンドホール〜15フレットあたりを斜めに角度をつけて狙いつつ、30cm〜1m程離して配置することが多いです。
狙うポイントをブリッジ側に寄せれば寄せるほど柔らかい音になりますし、ネック側を狙うほど固くアタックのある音になります。ハイのきらめきは比較的簡単に得られると思いますが、モニターを聞きつつローのぼわつきに注意して位置を調整してください。
ステレオ収録の場合
2本のマイクで収録するステレオ録音は、広い音場が得られます。実際にそこで鳴っている感じを強く出すことができ、弾き語りやソロギターなどにはもってこいです。
同じモデルのマイクでも、違うマイクでも、出音がよければ大丈夫。30cm〜50cmくらい離して平行に配置してみてください。狙うポイント自体はモノラルと同様です。
その後、ミックス段階で左右のトラックのパン幅操作でステレオの広さをコントロール可能。
レコーディングスタジオでは、さらにアンビエンスマイクとして数m以上離れたところからギターや楽器の向いた壁を狙い、リバーブ的に少しだけ混ぜることも行われますが、これを宅録でやっても空調や道路からのノイズが乗るだけのことが多いので、相当に静粛な場所以外では不可能でしょう。
エレアコと呼ばれる、エレキ同様ピックアップやマイクを内蔵しケーブル出力できるようにしたアコギもありますが、レコーディングでこれらの機構を使う必要はないと思います。私は自分のアコギにL.R.BaggsのLyricピックアップを仕込んでいて、これはライブで使うには文字通り最高の音質と操作性を持つコンタクトマイクだと思いますが、どんなに高価なピックアップ/コンタクトマイクも、ボディ内から拾った音はどうしても不自然さは残ります。
アコギの中に耳を突っ込んで聞いてる様なものですから……そんな人いないですよね(笑)

逆にどんな安価なダイナミックマイクでも、周波数バランス的に曲にマッチするかはともかく、普通にリスナーが聞く様な場所に置けば"アコギの音"にはなります。
マイクの選択肢
レコーディングスタジオではC-451が定番。

ドラムのオーバヘッドマイク用に複数ほぼ確実に置いてありますし、明るくキャラキャラ(笑)した音なのでストローク中心のサウンドによく合います。
宅録で同じように使えるマイクとして、ステレオペア2本で6000円のBehringer C-2があります。これでドラムも録れますよ。

U87はとにかく耳馴染みがよく自然な音で収録でき、"あ〜、この音ね"という感じ。
同じく宅録では6万円でU87Aiとは違う"オールド87"の音がするというWarm Audio"WA-87"がありますね。

87の無いスタジオに代替として置いてあることの多いC-414だと、XLSやUKS等いろいろモデルはありますが、基本的には冷たく乾いた音質。
ダイナミックマイク系統はどうしてもミッド寄りで構造上ハイが出ないので、煌めき感は薄れますが逆にブルージーでいなたい音を狙うならコンデンサでは出せない雰囲気を出せます。この辺は曲調や欲しい音によって使い分けます。

マイクプリアンプ/EQ/コンプ処理
プリアンプとEQでの音作り
コードをかき鳴らすようなスタイルの場合、プリアンプにはAPIがお気に入り。インプットで0VUを超えて少し歪ませると通すだけで音がエネルギッシュになるので、弾いていて気持ちがいいですね。ラインで通すだけでもハイミッドがグッと前に出てきます。
API本家のプリアンプはマイク一本分でも10万超えですが、Warm-Audioのコピー品であれば5万円台。
こういった機材をうまく使えるかがアマチュア制作家とプロの差になります。

それよりも陰のある、60s~70sな陰影感を出したいならUA-610も格好いいサウンドです。

私個人は、1081系のトランジェントを持つSilk - Blueモードに設定したSHELFORDを使います。
"レイヤー"的にエレキギターが入るなら1kあたりを広くカットして100〜300Hzのピッキングアタックと5〜8kを残すことでバランスを取ります。
その後のミックス段階で、エレキともども200Hzのボワッとした部分を少しカットすると主張を残しつつローがスッキリするかと思います。
コンプ
コンプに関しては曲のパート数が少なくプレイヤーが上手ければ別に必要ないのですが、スタジオではとりあえずUA - 1176とかUrei - 1178を使っておくことが多いですね。
わかりやすくアタックが早くローの多い楽器なので、Teletronix等だと一気にリダクションがかかるので注意。そしてここでもやっぱり、API - 525のかかり方が好きです。
↓これはAPI - 2500のモノラル版ともいえるので、Waves API Collectionで再現できますよ↓

SSL、API、Neveという、世界最高峰のオーディオ機器メーカー3社のモデリングがワンセットに。音色変化の仕方が「音楽的」で、音を破綻させる事無く個性ある音楽を作り出すことができます。
↓商業スタジオの様に、マイクで録った音を更に「作りこむ」為に必要です↓

セッティングとしては、ピーク時に-3dBくらいになるようにして、アタック早・リリース中高速(~100msくらい)でモニターだけにかけておくと、勝手にプレイヤーがいい気分になってくれると思います。
またエレキと同時に鳴らす場合は、逆にかなりコンプで均さないとうまく両立して聞こえない事もあります。この場合は曲中ずっと-3dB〜-6dBかかりっぱなしになるくらいでも良いです。
Warm-Audio WA - 76。レコーディングスタジオ定番、モデル「1176」の音そのものというよりは、万能かつPCに無負荷で使えるコンプとして一台導入すると安心感が違いますね。

リバーブ
アコースティック楽器は残響も含めて音色の一部で、クラシックギターの大御所演奏家などは教会でレコーディングすることもあるほどですが、現在は近接マイキングが主流なので、残響はミックス時に付加することがほとんど。
ホール系よりは"ルーム"系または"アンビエンス"、SONYやBricastiといった、金属的で明るめの音がする1〜2秒のリバーブが合います。
この種のリバーブはあまり多く残響を出すと耳に痛くなったりするので、スピーカーで聞いて少し音が遠くなったくらいでいいと思います。スピーカーと耳との位置が近い、イヤホンやヘッドホンだとこの感覚をつかむのは大変難しいので、スピーカーを鳴らせない環境ならばWaves Nxなどのプラグインを利用することを勧めます。
演奏環境など
アコースティック楽器は、基本的に湿度が低いほうが"良い音"になります。急激な温度変化や、日本の高温多湿な気候は楽器自体にもダメージを与えることがあるので、楽器を長持ちさせるためには
- ケースには保温・保湿剤を入れる
- 冷房や暖房の風を直接当てない
等のメンテナンスも必要です。

