
私の「無人島に一台持っていくなら……これ」なヘッドアンプ、Rupert Neve Designs "SHELFORD Channel"にはDI機能がついており、ギター・ベースの直接入力が可能です。
スルーアウト端子も備え、ラインをSHELFORDのメイン出力から押さえつつスルーアウトからベースアンプへも送る等のセッティングも可能で、プリアンプ的にライブでも活躍します。
さて、ライン録りしたベースの生音は多くの場合貧弱で、特にパッシブの場合ベケベケいうだけで太さのないサウンドだと思います。しかしこのSHELFORD Channelは超絶いい音のするEQとコンプを内蔵しているので、超絶いい音でライン録りすることが可能です。
EQセッティング
SHELFORDのEQは「Neve 1064/1073」等オーディオ機器の歴史上最高峰と呼ばれるEQ群をベースに現代の部品と理論で組み立てた、伝統と技術のハイブリッド。このEQだけでレコーディングの最終段階まで通用するサウンドを得られます。以下具体的な数値を挙げていますが、あくまでもSHELFORDに記載されている数値であり、実際に作用している帯域とは違う可能性も高いので参考程度にどうぞ。
ローエンドの補正
楽曲のボトム/ローエンドを担うベースの音作りの際当然メインとなる、モデル1064-EQベースのLowバンドが搭載するEQポイントは
35Hz |
60Hz |
100Hz |
220Hz |
の4ポイントですが、このうち60Hzはキックの「ズンッ」という太さの軸となる帯域、100Hz~250Hzは近接マイクやルームから得られるスネアの太さの軸なのでそちらに譲りたい。楽曲の空間をL/C/R、つまりモノラルのセンター中央(Center)とパンを振った左右(Left/Right)に分けて考えた時、同じ位置に違う楽器がいる場合はこの考え方が有効、各楽器の美味しい帯域を考え、そこを譲り合って音を出していきます。理想的には、曲のアレンジや楽器のフレージングの段階からこれを意識してレコーディング出来ると後のミックスも簡単になります。
さて、実際のセッティングとしては、35Hzをシェルフカーブで6dBほどブースト。ただこれだけでいい音になるのが設計の妙。聞いた感じだと50Hzくらいからもうすでにブーストがかかっていると思われます。
ミッドレンジ
説明不要、伝説的なNeve モデル1073-EQをベースとしたMIDバンドでは、900Hzを3dBほどカットし、ボーカルの帯域を空けています。DIトラックでここをカットしておくことで、マイク録りしたベースアンプを混ぜたりする場合でもローエンドを担当するDIとミッドレンジをメインにするアンプサウンドで棲み分けが可能です。
コンプ
従来のSHELFORDシリーズ5051/5052 では、Rupert Neve Designesのフラッグシップコンソール、5088のチャンネルコンプが搭載されており、これはVCAベースのいかにも卓らしいナチュラルなものでした。
しかし本機5035/SHELFORD Channelには、ダイオードブリッジを通る回路設計により独特のサウンドを誇った名機Neve 2254の効きをベースとして、現代化改修を行った新開発の「ダイオードブリッジ・コンプレッサー」が搭載されています。これが本当に見事なサウンドで、現状私が世界で一番好きなコンプです。どんな場面でもあっという間に最適な設定にでき、預けやすいしっかりとしたリダクションながら、スカンッと強烈なロック感のある出音。
しっかりと抑える為RATIOは6:1、Attack/Releaseはトランジェントの突入速度に合わせて自動制御されるAutoに設定、かつFast Attackオプションでしっかりとピークを捉え、楽曲空間の下端/ボトム領域に押さえこんでいます。この設定が非常に扱いやすくもいいサウンドで、ボーカルレコーディング時のレベラーからギターソロ、スネアまで大抵このままです。
また、HPF to S/C機能を利用し、コンプが100Hzらへん以下の重いローエンドに反応しないようにしています。これにより、ベースのボトム感はそのままにアタック感だけを均すことが可能。
インプットとSilk
Neveの旨みとも言えるインプットはVUが0dB〜+2dBをうろうろするくらいに設定。ゲイン量でいうと18dB。Slikコントロールは、アタックを滲ませるBlueモードを選択。1073の張り出し感を与えるREDモードを使うのは私の場合リードボーカルとリードギターだけと決めており、こうすることによって自然と帯域や楽曲空間のバランス整理になります。


まとめ
何度使っても、本機のサウンドと操作性の高さには感嘆の一言です。
サウンドはとにかく派手で格好良く、おら気持ちいいだろ(笑)と言わんばかり。
奏者の気分を盛り上げ、エキサイトさせてしまう力がありますね。そうなればフレージングも変わってきますし、何よりレコーディングが楽しくなります。ライブにおけるファンの存在同様に、これこそが本来のレコーディングの醍醐味であり、一瞬の音楽的ヒラメキや思いつきを永遠に残すレコーディングの本質。命じない限り音の変化しないデジタルだけのレコーディングでは得られない感覚です。
奏者の技術を限界突破した120%まで引き出させてくれるのが優秀な楽器や機器の特徴。どんなプラグインを使っても得られないアナログの感覚を是非お試しあれ。まあ、30数万円はむろん高価ですが、オリジナル(ビンテージ)のNeve製品は状態の悪い中古でも50万円~が相場ですから、むしろ安いほうです(^^;)
まあ、誰かの心に届く音楽を創りたいならば、良質なマイクプリは絶対に導入するべきです。そこがアマチュアとプロの差ですからね。

PRE-73 Jr(ジュニア)。Neveと同系統のサウンドながら3万円台。ちょっとバイトして、エフェクター一台見送れば買えるじゃないか!私も、マルチマイクでのドラムレコーディング用にちょっとずつ買っていく算段をしています(笑)
