
2004年に初版発行、2012年に著者監修のもと改訂版として発売されました、「レコーディング/ミキシングの全知識(改訂版)」
最初にまとめ!
アコギやボーカル等生録を楽曲に取り入れたいなら文字通りの「必携」!
プラグインだけで制作する方も、ミキシングの考え方やテクニックを学ぶ意味で「推奨」!
サウンド&レコーディングの企画等でもある程度の知識は得られますが、それよりも本書の内容は圧倒的に濃密ですし、実戦的です。
著者:杉山勇司氏について
著者である杉山勇司氏については、google検索するだけでわかっていただけると思いますが、数十年前のバンドブームの時代から現在に至るまで、実際に商業音楽シーンで活躍するエンジニアであり、ご自身もアルバムをリリースするなど音楽全般に造詣の深い方です。
担当アーティストの一例をあげるなら、X JAPAN、ラルク、河村隆一等。
内容について
全知識シリーズの特徴である、経験豊かな講師陣から直接指導を受けるような感覚は健在。
第一章、機材編では
マイクロフォン、コンソール、アウトボード、スピーカーといった、制作に使う機材の基礎から使い方、注意点が実際の機材例とともに多数掲載。
ダイナミックマイクを例にとっても、SM57/SM58/MD421/RE20/D112/ATM25といった具合に、スタジオ定番のマイクの出音の傾向から得意とする場面など、コンデンサでは、構造、ファンタムの基本知識から扱い上の注意、こちらでもU47/U87/C12/414/251/451等定番マイクの特徴やそれを活かす方法が惜しみなく解説されています。
コンソール/ミキサーの基本的な使い方/考え方を解説し、アウトボードの有名機やその特徴/傾向も写真付きで解説、EQやコンプだけでなく、リバーブ/ディレイ等も解説されています。
モニタースピーカーのセッティング方法やリスニングボリューム設定のノウハウもあり。
第二章、レコーディング編では
プロスタジオとリハスタの音響的な違い、そして本書の神髄
レコーディングにおける心得やあらゆる場面で使えるマイキングの考え方に触れたのちに、
ドラム、ベース、ギター、ピアノ、ストリングス、ボーカル、シンセ等ラインもの、それぞれのマイキングやアウトボードかけ録りについて記述がされます。楽器ごとの注意点から、使えるマイク本数に応じた優先順位など、アマチュアでもすぐに参考にできる情報が満載です。
このマイクをここに向けて使うとこんな音……という情報は多量にありますが、この位置から何cm離して……というあまりにも具体的な情報はあまりありません。
そのあたりはその日のセッティングやプレイヤーによって変わるのが当然ですから、あらかじめ語られた「マイクを置く位置を決めるための方法」を使えということです。
とはいえ写真が豊富に掲載されていますので、困ったらその写真をマネするだけでも及第点以上のサウンドは得られるのでは?(笑)
この辺は、専門学校等で教わる内容と大きくは変わりませんが、いくつものマイクバリエーションやそれによる変化もわかりやすく解説されていますし、通常求められるサウンドには簡単に近づけると思います。
(本書そのものが専門学校で教材として使われる事例もあるのですが)
マイクプリアンプについての言及や、セッティングのコツといったちょっとこだわりたい方向けの情報も惜しまず記載されており、このセクションだけでも非常に価値があると思います。

第三章、ミキシング編では
ミキシング概論と称した基本的な考え方から、アコースティックギター系アンサンブルを題材とした実際のプラグインセッティングとその意図までが図や写真とともに紹介されており、ある程度慣れた方にとってもいい振り返りの機会になるような内容が書かれています。
ベースとキックの兼ね合い…、ボーカルとオケを馴染ませる…、音が細い…といった、よくある質問的な内容にも言及し、筆者のDAW内でのプラグインや信号ルートの設定も公開されています。
ボーカルのトリートメント(タイミング編集等)や波形編集についても詳しく解説され、独学だと知らないような内容も盛りだくさんです。
本書は「レコーディング/ミキシングの全知識」ですから、この後に控えるマスタリングについては別書籍「マスタリングの全知識」(これまた超名著)へ……となりますが、レコーディング/ミキシング側から見たマスタリングに対する考え方などにも触れ、著者が本文中で言及する通り「音楽制作はひとつながりである」ことを意識できます。
コラムとして、いわゆる「リファレンス・ディスク」として著名なアルバムやかなり専門的なところまで網羅する用語集があり、こちらも有用。
これまた、独学だと知らないようなところまで解説されています。
読んだ感想
「生録音・生演奏をメインに楽曲を作る、バンド的なアプローチを多用する方」
にとってはまさに必携の一冊と考えます。サウンド&レコーディングなどの企画でもある程度の知識は得られますが、一冊の書籍だけあって本書の内容のほうが圧倒的に濃密ですし、実戦的です。
音楽がお好きな方、制作を楽しめる方なら、普通に読み物として読むだけでも大変勉強になる内容ですし、同時にHowTo、知識箱としても使えます。
エンジニア志向の方だけでなく演奏者の方も、現代ではある程度エンジニアリングの知識は持っていて当たり前の時代になっています。そんな方も、本書でエンジニアの「楽曲全体を見る」視点を持つことでプレイヤーとしてより高みに立てるかと思います。
プラグインシンセや打ち込みをメインに使い音楽を作る方も『ボーカルを使いたい、ドラムのアンビエンストラックは生を使いたい……』ということもあるでしょう。
またミキシングについての知識はビート系であっても共通ですし、それについて知ることはマイナスになることはないでしょう。初めからすべてを読む必要はなく、今必要な部分、知りたい部分だけを少しづつ理解していく形でも全く問題ありません。
今から音楽を始める方から、何十年もスタジオに勤務するベテランまで、音楽をより詳細に、深く理解したい方には誰にとってもおすすめできる、有用な教科書/指南書という印象を持ちました。
内容的には専門学校の教科書レベル、5000円くらいしても買っていいと思うのに、Kindle版なら1900円、書籍版なら2052円。
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