
P90というピックアップ
Les Paul SpecialのP90ピックアップはシングルコイルですので、「ブーッ」というハムノイズが乗るかわりにハムバッカーが構造上持たない高域成分と「ヒ~ンッ」と強烈な倍音感を持つのが特徴。
出力のダイナミックレンジ(表現できる音の大小幅)も通常のハムバッカーとは大きく違い、優しく弾けば優しく、強く叩きつければ歪んだサウンドへと、ピッキングの強さだけで全てをコントロールすることが可能。
実際、Ashmallオリジナル楽曲程度のゲイン量であれば、リードトーンから2番のクランチサウンドまで、一切のアンプ/エフェクター操作なしに可変できるため、ライブではパフォーマンスや演奏そのものに集中できます。
更にSpecialやJuniorといった機種の場合、マホガニーボディから来る「ジュワーッ」というミッド感は適度に歪ませる事によって強調され、ドロップチューニングを使うようなヘビィな音楽でも使える、非常に格好よく代えがたいサウンドを生み出します。
とはいえ、歪ませると同時にノイズも持ち上がってくるわけですが、これは無演奏時には「瞬時にギターボリュームを絞る」ことによって聞き手には聞かせないのがプロギタリストの常識です。

さて、そんなP90ですが、出力の目安となる直流抵抗値はビンテージだと6.5〜8.5kΩと大きめ。

そして音の太さ、つまりピックアップのローエンド量に影響するインダクタンスは時に6ヘンリーにも届く個体も。ストラトのシングルコイルが2.25、PAFが4付近である事を考えると、これは驚異的な数字です。
つまり、ストラト/テレに搭載されるピックアップより太く甘いトーンを生み出します。
同じGibsonながら、ハムバッカー搭載のいわゆるバーストやゴールドトップをはじめとした「Les Paul Standard」シリーズよりもアタック感が突き抜けてきますので、左手の押弦と右手のピッキングのタイミングがわずかでもズレれば音になりません。
レスポンスも異様なほどに早く、ビンテージギターと現行品との違いはここにあります。
私は以前Duncan Antiquity P90をマホガニーのフライングVに載せていたことがあり、サウンドは太く枯れまくって気持ちがいいのですが、音の早い感じは僅かに及ばない感じかありました。これは木材の差かもしれませんので、Antiquityが素晴らしい表現力を持つピックアップであることは間違いありませんが。


オリジナルの57年製と、オリジナルのP90を使う私が満足できるサウンドとレスポンス性能を持つのは、今のところAntiquityシリーズだけです(笑)

ちなみに、1957年頃にGibson社は使用する磁石をそれまでのアルニコ2からアルニコ5へと更新を始め、これによってサウンドも変わったと言われており、前者は柔らかく甘いトーンを持ち、箱モノを使うジャズの様な音楽にピッタリ。
後者はそれよりはパンチがあり、ホットブルースからロック、パンクといったサウンドにマッチします。
前身となったモデル
ジャズ等のアンサンブルの音量に負けないようにという形で始まった「アコースティックギターの電子楽器化」という試みは、1930年代、アルミニウムとニッケル、コバルトという3種類の金属の合金で、強力な磁力と小型化を達成する"アルニコ"の完成によって大きく前進します。

1940年代に入り実用化された初期のピックアップはP-13として知られ、ES-100/125/150といったGibson製ギターに搭載されていました。そして第二次世界大戦直後の1946年、Walt Fuller氏が完成させたのが、P-90となります。
ベースプレート、つまりプラスチック製のカバー部分の形状には2種類あり、
- Juniorとホロウボディ/マウント用の「ドッグイヤー」タイプ
- SpecialやStandard、Custom/ボディに直接打ち込まれたネジ穴と「ソープバー」タイプ
があります。これは単純にマウント方法の違いで、回路的な構造に違いはありません。
それぞれで音が違う……、という意見もあり、ボディの振動の仕方が変わるので確かに変わるのでしょうが、それよりもビンテージギターそのものの個体差が大きすぎますし、どちらにせよ
「P90の音」
にはなりますから、比較にならないと思っています。