
エレキギターをサウンド的に分類すると、GibsonとFenderが未だに二台巨頭。
つまりは、
- Gibson - ホロウボディとレスポール、
- Fender - ブロードキャスター(後のテレキャスター)およびストラトキャスター。
Ashmallのギタリスト陣は基本的にGibson使いで、うさは「Epiphone Les Paul Standard Pro」、まふゆが「57年製 Vintage Gibson Les Paul Special」。
この「Standard」と「Special」とは?そもそもLes Paulとは何か?
深く掘り下げていきます。
1.Les Paulとは
エレキギターは、1940年代に日々発展するジャズシーンの中で
「サックスやトランペットに音量負けしがちだったアコースティックギターを電子楽器にしてよォ、その音をスピーカーから出してな、ビビらせられんけーの?」(意訳)
というのが原点でしたから、最初に量産化されたエレキギターはアコースティックギターの気配を色濃く残すホロウボディタイプでした。
その中で、実際ジャズ界にて活躍したギタリスト、Les Paul氏の名を関して発売したのが「Les Paul Model」。つまりはレスポール。
レスポール、と言われて想像されるのは、おそらくこういった形状だと思いますが、

これは「LesPaul Standard」廉価版でも上位版でもないスタンダードなモデルで、1952年に発売された、最も初期のレスポールから連なる系譜。1952年この時点では、
金は豊かさの象徴
という意見により、カラーリングはゴールドトップのみ、ピックアップはP90。ハムバッカー(PAF)はまだ開発導入されていません。

最初期のレスポール
発売間もない1952〜1955年までのレスポールは良くも悪くも実験的な要素が強く、チューニングが安定しない、ブリッジミュートができない等現代から見ればいくつかの欠点があり、演奏性よりは希少価値によって高価な価格設定がなされています。
ただし、(比較的)安価なこの年代のレスポールを後の人気ある仕様に改造する「コンバージョン」という市場も存在しています。
その後、1955〜1957年モデルはTUNE・O・MATICブリッジやストップバー・テイルピースの採用によりチューニングの問題を大幅に改善し、P90ピックアップ搭載のレスポールという点で完成され、ビンテージ市場はもとより、コピーモデルでもこの年代のものを手本とするものも多くあります。
ハムバッカーの搭載
1957年初頭にGibson社は、後にPAFと呼ばれるハムバッカーピックアップを投入し、「レスポール」モデルの名を永遠のものとしました。
技術者Seth Lover氏によって開発されたこの新たなピックアップは、「P90がレコーディングの際に拾うノイズをなんとかできないか」という着眼点で、ハム(要はアンプから聞こえるブーッというノイズ。電磁誘導やら60Hzやらいろいろとありますがここでは割愛)を無くしたピックアップ。
これは新開発ゆえ
PATENT APPLIED FOR(特許出願中)
というシールを貼られたまま市場に投入され、これが後にいう「PAF」、または「PAF系」と称するピックアップ群の原型となります。
このノイズ対策のための構造上、それまでのP90やFender社のピックアップサウンドと比べ高音が丸いという特徴はありますが、はじめからこれを意図したものではなかったわけです。

「バースト」
レスポールは1958年にカラーリングをゴールドトップから「サンバースト」へと変更し、ボディ裏の塗装も暗い茶色からチェリーレッドと変わります。
1958〜1960年に製造されたこの「サンバースト・レスポール」、特に著名なギタリストが多く使用した59年製は
「史上最も魅力的なエレキギター」
と言われ、ギター界のストラディバリウス、売価もプレイヤーズコンディション(実際にライブなどで使われ、骨董的な綺麗さは少ないもの)でも500万ほど、著名なギタリストが実際に使った実物であれば数千万です。
57〜58年のゴールドトップモデルと58〜59年のバーストは塗装以外ほぼ同一のはずですが、何故かそこには音の違いがあり、
- ゴールドトップは極太で、「ジュワ~ッ」とアタックの滲むブルージーなサウンド
- バーストは突き抜けるミドルと強烈な倍音感で「ヒィ~ンッ」と叫ぶようなサウンド
ジャズとかロックの低音リフが似合うゴールドトップ、ソロには断然バースト、という感じ。とはいえ、この年代のギターは同年の同じモデルでも全く音が違うのが普通なので、参考程度に。
「ビンテージ・レスポール」の終わり
この後、1960年に一旦この形状のレスポールは生産を終え、今で言う「SG」がレスポールというラベルで販売され始めます。

この1960年製レスポールの仕様をモデルにしたラインナップが今の「Les Paul Classic」。
1968年に再生産が始まりますが、この年を最後に「楽器としてのビンテージレスポール」として一部の層に認められるレスポールは終焉。ハードロックの爆発とともに「売れる製品」としての色が色濃くなっていきます。
この年代より後のGibson製レスポールは、時代がハイゲインを求めるのに応じ、ピックアップの高出力化傾向にも後押しされて
バリバリ歪ませると格好いいが、レスポンスが悪く軽い歪だと微妙
という、歪重視な個体が多くなっていきます。
さて、ここまではうさの持つ「Les Paul Standard」の話でした。
「Standard」が「レギュラーライン」である以上、当時他にもモデルが存在しました。これが
まふゆの愛機「LesPaul Special」。
Les Paul Special
本物のビンテージが持つ、見ただけでドキッとするような威圧感まで捉えるZeissの表現力は見事の一言に尽きる
— まふゆ.jp@福井バンド『Ashmall』 (@mafuyu0318) September 17, 2019
ほかにもいいレンズはあるが、これにしか出せない気配があるよね、そういう気配って後からの加工じゃ出せない
うーんビンテージギターと同じ#ギター #guitar #LesPaul #LesPaulSpecial pic.twitter.com/hI2tJb3tTx
57年製のストラップピン取れちった
— まふゆ.jp@福井バンド『Ashmall』 (@mafuyu0318) September 26, 2019
テープエコー用エンドレステープの補修からギター修理にまで使えるアロンアルファ先生#ギター pic.twitter.com/Tq4JapFtA4
スペシャルとかいいつつ、位置づけは廉価版です(笑)
同じく更に廉価な「Les Paul Jr.」(マウンテンのLeslie West、岸田教団はやぴ~氏など)、逆に上位版には「LesPaul Custom」(Randy Rhoads)等がありますが、今回はSpecialについてだけ。
57年のGibson LesPaul Specialは、木材の構成を変更し、また塗装を簡易にすることによってコストダウンを図ったモデルです。
指板上のインレイがドット(つまり点、Standardはブロックタイプ)、ノブ等も異なりますが、コンデンサはオリジナルのバンブルビーですし、P90ピックアップもまた然り。
Standardとの最大の違いは、Standardが
マホガニーネック+マホガニーボディをメインに、表層にメイプルを貼っている
のに対し、Specialは
マホガニーネック+マホガニーボディ
つまり木材の構成です。
エレキギターは、ボディとブリッジ等パーツによって作られる弦振動を電気系統で音に変換しますので、使われる木材によって振動の仕方が変わり、出音にも影響があります。(……というのが私の持論です)
搭載ピックアップも異なりますが、本物を弾けば一発でわかる違いとして、SpecialはStandardと比べ
柔らかくミドルが出て(木材の音)、レスポンスの早くなお且つバイト感の強い骨太な音(ピックアップの音)
これに関しては、Ashmallのオリジナルとカバー動画では確実にビンテージSpecialを使っていますので聞いてもらったほうが早いです。
この柔らかなミドルがビンテージの、おそらくは木材の特徴で、どんなに高価な現行Gibson Custom製品でも出ませんし、10万円後半からのTokaiやNavigatorが似た音は出せますが「全くそのもの」は出た試しがありません。ヒストリックを含む現行ギブソンの音も「あれはあれ」で図太くロックで格好いい音なのですが、ビンテージの音ではありません。

理屈を抜きにして、柔らかく耳心地の良いサウンドなので、聞き手にもっと聞きたいと思わせることができます。
アンプラグドでの鳴り方も異なり、音量的にはもちろん及びませんが、完全にアコギの反応の仕方をします。鳴りの音量だけなら現行品でも本機より大きいものがたまに存在しますが、そこに付随してくる反応速度、ピッキングでの入力と出てくる音量のリニア感が全く別次元で、マイクを立てれば普通にアコギみたいに扱ってもらえるほど。
その分フィンガリングミスや「自信なさげ」なプレイまで如実に音になりますので、ビンテージで練習をするとテクニック云々ではない「ギターの演奏」という行為そのものが見違えるほどに上手くなります。弾いたそのままを音にし、誤魔化しがききませんので。クラシック楽器で言う
良い楽器は良い先生になってくれる
という考え方と一緒ですね。
「Les Paul Model」は商標ですので、本家Gibson社と子会社にあたるEpiphone社以外はその名を冠するギターを作ることはできませんが、様々なギターメーカーが「レスポールタイプ」と称して似た形のギターを作っています。
なぜ、ここまでレスポールが愛されるのか?
もちろん様々な理由はあります。
本家Gibson/Epiphone製は高価なため「安価な代替」としてマーケットの需要がある事、全く新しいものを研究開発するより手っ取り早い事。その中で、最も大きいのが
著名なギタリストが多く使用したこと
これに尽きるかと思います。
レスポールのカラーリング
私個人として、レスポール・スタンダードといえば、
Jimmy Pageと平沢唯の「サンバースト」
Peter GreenやGary Moore、Slashの「ハニーバースト」
David GilmoreとLarry Carltonの「ゴールドトップ」が御三家だと考えています(異論は認める)。

あらゆるエレキギターの中でも群を抜いて有名で、随一の歴史あるモデルですから、ユーザーも多岐にわたります。
ジャズからダウンチューニング上等のラウドまで、細かなことを考えなくとも一本のギターで対応できてしまう、完成された仕様。ギターはあくまでも媒介であり、楽器演奏の本質は
思考の中にしかなかったものを物質世界へと出力する
行為そのものにあると思います。
1960年代に流行したサーフミュージックの為に開発されたギター達が、"ビザールギター"としてしか生き残れなかった事を考えれば、そこに時代を生き残った理由があるのではないかと思います。
……いい感じに纏まりました(笑)