
本シリーズは、私なりのミックスの手順、トラックの順番にトラックカラー等効率化の知識、使用する機材にプラグイン等を解説していきます。
私は日本とアメリカの音楽学校にて制作を学びましたが、ギター・バイオリン・ピアノ・ドラムその他の楽器を人前で演奏してきたミュージシャンでもあるので、あくまでもアーティストとして何かを表現する為に制作をすることが音楽の本質だと思っています。
作曲者・奏者の意志を最大限に伝えようとすることがミックスの本質です。
ミックス≒ミックスダウン
そもそもミックスとは
レコーディングで録音した2つ以上の音源トラックを、LとRのステレオ(2チャンネル)といった「処理前より少ないトラックに」にまで減らす(ダウン)
ミックスダウンの事でしたが、現代ではそれ以上に、各楽器の音を大胆に変化させたり、曲中でボリュームを変えたりして、楽曲をより派手に、またはよりしっとりと聞かせつつバランスを取る作業という、よりアクティブな意味合いが強いです。
スタジオを占領する大型のミキサーや多量のアウトボード(イコライザーやリバーブ・コンプレッサ等オーディオ処理専用の機械)を使い、楽曲を組み上げていくミックスは、ライブはともかく何気に作曲や録音よりも花形だったりします。

始まりはアナログだった
録音技術と音楽そのものの発展期である1950〜1990年代前半までは、音楽制作は大型スタジオ内に何時間もこもって録音しつつセッションを続けたり、メンバーがミキサーの前に座って「ここをどうするか」議論するといった「共同作業」でした。

また、当時はアナログテープに録音していたため、頻繁にパンチインしたり巻き戻したりは出来ず、結果「一発録り」が主流ですし、一度機材のつまみを動かしたら前の位置へ戻すことは実質できず、サウンドも「一発勝負」といえます。
そこで使用される機材も、「如何にいい音になるか」や「格好いい音で録れるか」といった楽器のような扱いをされ、現代でも超高値で取引される名機が多く生み出されました。
SONYのテープマシンで録ると音が太い、Solid State Logic(SSL)のミキサーを通せばそれだけでプロの音になる、といった具合です。
コンピュータミックスの革新
しかし、現在商業を意識した音楽スタジオには確実に「AVID ProTools」が導入され、コンピュータ内ソフトウェア(DAW)で全ての処理を行う「In The BOX」という手法がほとんど。
これは、コンピュータの持つ正確さと「スタジオAで作ったファイルをメールやディスクで会社Bへ簡単に送れ、またバックアップややり直しも容易」という点がプロの世界で評価されたため。
これによって、一個人が自宅でミックスを行うことも難しくなくなっていますが、一人だけで全ての演奏を録音できたり、やり直しが「Ctrl+Z」で簡単にできるが故に一回の録音ごとの緊張感がなくなったりと、「複数人の個性のスパークを切り取る」音楽制作の本質を見失いがちなのも事実。
サウンドも「アナログ感がない/平面的」というように言われることも。
もちろんこれは時代の変化ですし、ダンスやDubstep系のように「デジタルのクリアなレンジ感を活かして楽曲を磨き上げる」手法など応用次第で抜群の個性にもなりますが、アナログ時代から学べる事もあるという事を覚えておいて欲しいと思います。
とはいえデジタルとアナログを単純に比べていても意味はありません。双方ともに利点と欠点があります。
利点と欠点
デジタルでは、何十年も前に作った曲をリミックスしたいときでも、全てはデータなので完璧なまま残っています。そしてこのDAWの作業データをメールとかGoo○leドライブとかで送れば、自宅の寝室で録音した「歌ってみた」を海外のスタジオでミックスしてもらったりもできます。
これがアナログテープとかだと、テープが千切れてたり汚れていたりするとノイズが入ったり、再生できなかったりと大変です。この「なんだかんだと元に戻せる」性能を現場では「リコール性能」と呼んでいますが、消えちゃいました〜じゃ済まされないプロの現場でこそこれが重視されて、DAWとパソコンによる制作が一気に普及したんです。ある程度防音した部屋にパソコンを置くだけで「音楽スタジオ」を名乗れる時代なわけ。
でも、東京、ロンドン、ロサンゼルスその他に長年あるような大手有名スタジオだと、このDAWとボロボロになったテープや一台何百万円もするマイク、イコライザーといった昔ながらの機材を組み合わせて、昔ながらの機材で録った音をパソコンのDAWでミックスするんです。
伝統と革新の融合
さて、そうしてアナログとデジタルの利点を組み合わせたのが「ハイブリッド・ミキシング・セットアップ」と呼ばれるものです。
これは、大型コンソール(通称デスク)やアウトボードとコンピュータを相互に組み合わせてミックスを行うもので、アナログ機器のサウンドと操作性、そしてコンピュータの利便性とを両立できます。
多くの大規模スタジオでは、レコーディングでアウトボードとアナログテープを使って録音しつつそれをProToolsへと録音し、ProToolsからデスクへと音を流し(立ち上げ、と言う)再びアウトボードを使いつつミックスを行っています。
プロの人たちは、このマイクは太い音で録れる、とか、この機材を通すとこんなサウンドになる、といった機器の特徴を知り尽くしていて、それを使ってレコーディングした音をパソコンに入れ、そこからはDAWの特徴であるリコール性の恩恵を受けてミックスができるわけ。
だからプロの作った曲とDTMで作った曲では、同じソフトを使っていてもサウンドが違うんですね。しかも、アナログ卓を使ったミックスはそもそも「ミックスする側の気分」から違い、理由は不明ですが明らかに楽しいんです。
私の実際のセットアップ
さて、私のミックス法も考え方はこれに近く、
Universal-Audio Appoloインターフェイスの「STUDER A-800」プラグインを介しつつ音をProToolsへと録音(プラグインのかけ録り、という手法)し、それをSoftube Console 1(大型デスクのエミュレーター)や他のアナログ機材やアナログモデリングプラグインを使いミックスしています。

私はもともとメカメカしいものが好きでしたし、マウスで数値をちまちまと操作するのではなく、耳と出てくる音だけを頼りにつまみをいじって「格好いい音」を探すのが好きですし、何よりもそのほうがずっと「楽しい」ので、できるだけ数値に頼らないミックスをしたい、その結果このやり方にたどり着きました。

このやり方は、フルバンドのミックスに堪えうる程の多チャンネルな大型デスクまでは持たない中規模なスタジオや、個人でも仕事を請け負う著名なエンジニアによって多く使われており、そのサウンドは折り紙付き。
Console 1は著名な大型ミキサー持つサウンドや操作系、質感を大変よく捉えており、かつあくまでもコンピュータベースの為「別名保存」や「前の状態に戻す」ことも簡単。
モデリング元のミキシングデスクは「一台であらゆるミックス処理ができる」ことを前提に設計されるため、そのモデリングであるConsole 1もその理念を受け継いでおり、とにかくミックス作業が容易かつ「直観的・感覚的」に行えるため、私の制作の核となっています。


さて、次回からは、ProToolsのミックス・テンプレートや作業中の考え方、実際の楽曲の組み立て方などを解説していきます。