
PAFとは、1957年から1960年代前半までGibson社のギターに搭載されたピックアップであり、半世紀以上経った今もなお「超えられぬ壁」として君臨し続けるパーツ。
個人的には、パフと呼ばずにピー・エー・エフと読んだほうが格好いいのでそう読んでいますが、これは職人の経験によって作られていたものであり、かつ多数のギタリストが改造として
PAF系
と呼ばれる本機をもとにしたモデルをチョイスするがために、少々神格化され過ぎているきらいがあります。
載せるだけでいい音に!
だとか。 これは重大な誤解。正しくは、
ある程度以上品質のいいギターは、弾きづらいけどいい音に!
です。順を追って説明していきます。
PAFの出力について
PAFは本来、低出力かつ素直なピックアップです。出力の目安となる直流抵抗値は(ものによる誤差は大きいものの)通常の経年を経たオリジナルで7.0k前後。現行品で言うと、Seymore Duncan SH-1が8.2k、ANTIQUITYが8.6k。
DUNCANのSH-2がフロント用として人気なのは、ローがボワ付きがちなレスポールのフロントを低い出力で補正してくれるから。
にも関わらず、
PAFはよく歪む!
といわれる事が。これは、低出力故にピッキングのアタックをそのままアンプに伝えるため。
出力の高いピックアップは、俗に言う
"コンプ感"
という言葉の通り、構造上ピッキングのニュアンスを潰してしまいますが、出力の低い本来のPAFはパチンっというアタック部分もその後に続くサステイン部分もそのまま伝えられるため、アンプが歪むライン(クリップライン)に早く到達し、よく歪んで聞こえるのです。
ここから分かるように、 PAFをよく歪ませるためには、
アタックの強い、かつ弦のピッチをシャープさせないようなピッキングが必要になります。
逆に、速弾きしかできないギタリストによく見られる”細かく小さな”ピッキングでは、満足に歪ませることもできないことでしょう。

ところで、ギターを始めてとりあえず聞くのは
「VanHalenはPAFを使い、電圧を上げたマーシャルを使った」
というホラですが、あれはSeymour Duncan氏自らが巻数を増やして出力を上げたものですから、もはや本来のPAFサウンドとは言えません。
更に、Variac(変圧器)でアンプの電圧を70V程度にまで下げて駆動し、さらにそれのメイン出力を更に別のマーシャルのインプットに入れて生み出したサウンドです。
現在でいう"ブースターペダル"の代わりに本物のアンプを使ったようなセッティングで、現在ではエフェクターを使い容易に再現可能ですが、80年代には、実際にマーシャルを電圧を上げて駆動するギタリストが続出し、大量のアンプが破壊されました(笑)
結局、このことに関してエディ本人が謝罪までしていますから、死んでも試さないでくださいね。
PAFの持つサウンドの特徴
で、本来のPAFサウンドというのは、Jimmy Pageや後期のGary Mooreのライブに代表されていますが、「癖のない、極限までナチュラルなサウンド」というのが正解です。
これらの音源は、レスポールらしい音こそしていますが、その音を言葉で表現する事が非常に難しいのです。
弾いたままをそのまま音にする、音に味付けをしない。
木材と弦、演奏技術によって作られた弦振動を、そのまま電気信号に変換する。演奏者が望んだ音をそのまま出力できる。
よって、木材や技術によって振動の仕方が悪いと、それもそのまま音になります。
現在Jimmy Pageの使う59年製3トーンバーストにはDuncanのPAFコピーが載っていますが、そのサウンドは完全にJimmy Pageトーン。
つまり、原音重視・オールド志向なギタリストである限り、ギターサウンドとは弦と木材と組み込み技術、ハードウェアパーツ、そして何より奏者の腕≒フレージングの癖。ピックアップはSH-1とか奮発してもAntiquityとか、その辺で特に問題ないのです。
GIBSON Custom Historic製レスポール等に搭載された名機、57 Classic。ジュワ~ッと「ブルージーかつ」ガツガツしたサウンドで、ビンテージPAFの音とは違うものの「CDでよく聞く音」。普通に格好いい音ですので、私も実際にHistoricのブリッジに載せています。


Gibson純正の「BurstBucker」や「57 Classic」はクロムメッキの為ピカピカで、貫禄が出ません。ダンカン「Antiquity」等のニッケル製カバーを使ったモデルがお勧め。サウンドは上記の通り素晴らしいですし、まず見た目のインパクトが爆上がりしますし、サウンドも上記の通り素晴らしい。上はネック用、下はブリッジ用に少し出力アップしたバージョン。

逆に速弾きしかしないなら、出力が低くコンプ感の無いPAFを買う必要はありませんし、8弦ギター等ではそもそも低域の周波数レンジ的に対応できないかもしれません。
ぶっちゃけ、安価なギターなどにDUNCANやdI'mazio等の比較的高いピックアップを乗せるのは完全に裏目に出ます。
ギターの音は木材と弦、パーツの振動の仕方で決まります。そこがクリアされていないギターは、(超ハイゲインでごまかさない限り)何をやっても無駄です。(学生時代、新品2万だとか3万だとかのギターを、数十万かけてカスタムした私が断言します。)
まあ、これは「オールドFender~オールドMarshall」あたり、2~4段の増幅段(ゲイン)を持つアンプを使う場合に言えることで、ラウドだとかではこの限りではないかとは思います。
まあ、つまり、、これらのギターの「悪さ」は、ゲインを下げる程顕著になります。
クリーントーンでも音の大小を表現できず、どこをどう弾いても同じような音になる。
特定の演奏ジャンルにおいて、そういったギターにPAF系ピックアップを載せることは、費用対効果という面で満足が得られる可能性は低いと思います。奏者と楽器自体のポテンシャルが100だとしたら、あとのエフェクターやアンプ類は全てそこから引き算していくだけ。楽器自体の持つポテンシャルが全てですから。