
私の大好きな、熱愛しているといっても過言ではないUAD-2プラグイン、Chandler Limited "Curve Bender"のご紹介。
この見た目!最っ高!
さて、TG12345といえば、Abbey Road Studio専用のコンソールであり、ロックはもとよりあらゆる現代音楽の脈動をその身に通してきたデスク。
本機UAD-2 Curve Benderは、そのデスクのEQカーブとその結果得られるサウンドをREC/Mix/Masteringあらゆる用途に用いることができるようにというコンセプトで、Abbey Roadの認めたエンジニア兼技術者Wade Goeke氏の率いるChandler Limited社がChandler Limited EMI TG12345 Curve Benderとして販売するものを、UAD-2プラグインシステムとして再現するものです。
TG系のサウンドはローミッドの厚さとミドルの粘り感、カンカンとしたアタック感が特徴で、まさにロックバンドに最適なサウンドです。NeveとAPIのいいとこどり……という風にも称されます。
機能というより、本機でしか得られない質感を求めるタイプ
機能的にはインダクタEQとフィルターといった程度のものなのですが。
インダクタEQとは、コイルの一種であるインダクタを使い回路を構成したEQのことで、Pulteq EQP1-AやNeve 1073のミッドレンジバンドに代表されます。
インダクタは抵抗やコンデンサよりも単価が高く、コストがかかりますが、その分ブースト/カット時、他の帯域の位相シフトが最小限で済みます。つまり、より自然にブースト/カットできるということ。

耳に痛くなることなしに、分厚く、かつ違和感なく。
ファットに/ワイドにステレオ空間を捻じ曲げるEQと、古いのに新しい……というか、なんとも説明しづらいのですが、すっきりとしながらもロックな香り漂う本機の質感は大変に素晴らしく、その質感が好きな人は「手放せなく」なるほどの、その質感のために何度でも繰り返し聞きたくなるほどの色を楽曲やトラックに与えます。
本当に「魔法」としか言いようのない、形容しがたい質感です。
ハイエンドのマスタリングEQとしてはManley Lab Massive Passive等がありますが、個人的にはMassive Passiveは比較的補正的な使い方をする印象があり、また真空管の奥行こそありますが、その質感はここぞという使いどころに欠け、私としてはCurveBenderのほうが好きです。
BeyonceやAdeleといった現代音楽シーンのトップ層を任せられるエンジニアはほとんどがマスターバスに本機を通しています。
がしかし、基本的にはマスターに通すだけの「Set-and-forget」(セットして後は放置)な使い方をされていますので、正直個人で70万近い実機を買う気にはなりません(笑)
そんなわけで、このUAD-2プラグインは大変に重宝しています。
この質感という部分においては、本機に限らず、他プラグインメーカーによるアナログモデリングはたいてい頼りにならないので、もはやUAD-2の一択です。

DSP使用率と設定例
96kHzのモノトラックで20%程、PGMも18%といったところ。ステレオだと28%程になります。
プラグインとして使いまくれる以上、贅沢に各トラックの音作りに使っても大変素晴らしいミッドローと抜け感を得られますが、通常はマスターチャンネルの「音のキャンバス作り」に使用されます。
ミックスの開始時点から本機を通した上で作業をするわけです。
私のお気に入り設定はこちら。
むろん曲にもよりますし、完全に聴感で決めた設定になりますが、91Hzを4dB程ブーストし、20kHzは2dB程ブースト。シェイプは双方ともシェルビング。わかりやすく低域の量感と見通し感を伸ばす形です。
ロックサウンドでは、4.2kHzを2~4dB落として耳に馴染ませる様にしたりと、マスターEQとして常用しています。EQをオンにせず、ただ通すだけでもミッド~ハイエンドをオープンにする効能があります。このためだけにトラックにCurveBenderを通すことも多々。
各部の説明
簡単に言いまして、本機は「4つのEQセクションと、ハイパス/ローパスを持つモノラルモジュール……×2」。基本的にはマスタリングEQですので、モノラル×2が一台に入ったステレオモジュールとしてモデリングされています。
選択可能な周波数の異なるEQが4つ合わさって一つのモノラルモジュールを形成。これが左半分、と右半分。
そして、それぞれのモジュールのオンオフとリンク機能を設定するセンターセクションで構成されています。
- センターセクション、4つあるボタン、上の2つでそれぞれ「左」と「右」の
- モジュールのオンオフを切り替え。
- 左下のボタンで「L/R方式」と「M/S方式」の切り替え。
- 右下のボタンで「左右モジュールのリンク機能」のオンオフを切り替えます。
基本的な設定方法
センターセクションの上のつで左右両方のモジュールのオンにし、センターセクション右下のボタンが点灯、左右がリンク状態にあることを確認し、
- 一番上の横列にある赤いノブで周波数を決め、
- その下、真ん中の列のノブで増減量を決め、
- その下、七番したの列のスイッチで利きの強さとそのモジュールのオンオフを切り替える感じ。
下向きで増減量×2dB、上向きで増減量×3dB、真ん中でオフ。またQも自動で切り替わる)
総括
使いっぱなしというか、かけがえのない質感をもつ、アナログ機器らしいプラグインです。
UAD-2プラグインの中でも高価な中の一つですが、購入直後に試し、にやけが止まらなかったほど。
本当に素晴らしいサウンド、あのサウンドそのものです。